熊本 尚美

オンタマ独占インタビュー!!!
 
◆アルバムのコンセプトを教えてください。
このCD制作のお話をティートックレコーズさんから頂いた時、正直言ってすっごく迷いました。決断するのにも数年の月日を要しました。というのも、私はショーロをやるために本場リオデジャネイロで暮らしているわけですから、そんな私が「日本でショーロのCDを作る」意義を見つけるまでに時間がかかったんです。作るなら出来るだけ良いものを作りたい、だったらショーロの生地リオでレコーディングするのが最適なことは言うまでもないこと。日本から、いや世界中からレコーディングをしにリオへやってくる人が多い中、私が日本へ帰ってショーロをレコーディングするべきか、否か?お断りするということも考えました。でも、私のモットーは「やらないで後悔するよりはやって後悔するほうが良い」なので、じっくり考えてみて、その上で何がしかの意味が見つけられたらやってみよう、その意味が見つかるまで考えよう、見つけることが出来なかった時はお断りしよう、ということにしました。ご縁を大切にしたかったからです。ご縁がないものとは、どんなに努力をしても上手くいきませんからね。
結論から言うと、思いもかけないようなものが私の人生の中に出来上がってしまった、って感じです。もちろん良い意味で。もしこのお話を頂いていなければ、一生かかっても私の中からこのCDを作るアイデアは出てこなかったと思います。頂いた一通のメールから始まったティートックレコーズさんとの「出会い」ですが、これぞ人生の醍醐味ですよね。このCDの前と後では、私の人生は大きく違います。たくさん色んなことを学ばせても頂きました。
リオに移住して早いもので10年以上が経ちましたが、その間にもいろいろ気持ちが揺れ動きました。日本にはもう居場所がなくなったと感じた時期、ブラジルで活動を始め、みんなに温かく受け入れてもらって、お陰様で順調に仕事もさせてもらえているけれど、どれだけ努力をしてもブラジル人にはなり得ないことを痛感した時期、数年前から日本に定期的に帰って来るようになり、ライブツアーやワークショップでショーロの国内普及活動を始めてみたら、日本にもまだ居場所があったことを確認できるようになってきた時期等々、自己のアイデンティティを確立するまでにとても時間がかかりました。今は、そのすべての経験が元になって、日本文化の良いところとブラジル文化の良いところを合わせ持てるような人間になって両国の文化の発展や両国間の文化交流に貢献したい、と言うところに落ち着いていますが、そういう意味でもこのCD制作は、私の今のそんな気持ちを形として残すことが出来る素晴らしい機会だったと思っています。
私がいつも一番大切に思うのは「人」。一緒に音楽をして楽しめる人を探しながら、今まで生きてきたようにも思います。あれこれと考え抜いた末、「私が大切に思う、そして尊敬する両国のミュージシャンを集結して、愛がいっぱい詰まったCDにしよう」というコンセプトに落ち着きました。
日本で録音するわけだから、演奏者は当然日本サイド。出来るだけクオリティの高いサウンドを作りたい。そんなことを考えながら、大学時代からの大親友:中島徹氏(ピアノ)を筆頭に、日本では珍しいですが、ショーロには欠かせない楽器カヴァキーニョを弾くだいどうじさかえ氏、日本のブラジル音楽シーンはこの人なしでは語れないベーシスト:コモブチキイチロウ氏、そして東京在住の日系ブラジル人ドラマー:アレシャンドレ・オザキ氏を呼んで、フルート+ピアノトリオ+カヴァキーニョという本国でも珍しい編成にしました。
私はショーロしかしないので、音楽はショーロ。ということは、レパートリーはブラジルサイドで。100年くらい前の私の大好きな作曲家の作品から、現在も活躍中の現代作曲家の作品まで、幅広く集めました。
これで、私を介して「日本側とブラジル側に広がる友情関係が満載のCD」の出来上がりです。
 
 
◆選曲について教えてください。
とにかく、私が思うブラジルの美しいメロディを日本の皆さんに聞いてほしい、というのが選曲を始める時に最初に思ったことです。ただ、編成が普通のショーロとは違うので、似あわない曲もたくさんあります。まずはこの編成のサウンドに合う曲を探すことから始まりました。それにこの編成は、下手をすると「ジャズサンバ」的になってしまう危険性もありますので、「ショーロ」のスピリットを壊すことなく、この編成で、このメンバーで出来る曲に焦点を合わせることにしました。
それに、リオの友人達にもこのCDに参加して欲しいと強く思っていたので、5人の友人で作曲家に楽曲を提供してもらいました。
他にも、私が、いやすべてのショーロ演奏家が尊敬してやまない、エルネスト・ナザレーとシキーニャ・ゴンザーガという100年くらい前に大活躍をしたピアニストの楽曲も収録。クラシカルなこの作品は、私がピアノを弾くことにしました。そして、オリジナルも一曲収録。クラシック音楽とつながりの深いショーロの一面も、このあたりから感じ取ってもらえると思います。
CDのタイトル「ショーロ・サンバ・ガフィエイラ!」のガフィエイラは、ダンスを踊る場所、あるいはそこで踊られるダンスのことで、ガフィエイラ用のショーロもあります。そのほか、タンゴ、ポルカ、ワルツ、マルシャ・ハンショ等、リズムの宝庫ブラジルの様々なリズムの音楽を集め、バラエティに富んだ選曲になりました。
 
 
◆特にこだわったところを教えてください。
ショーロの美しさ、メロディの美しさを一人でも多くの人に伝えたい。そして、ブラジルの底抜けに明るい人達が作る音楽で、日本の皆さんにもワクワクしてもらえるようなCDにしようと思いました。
 
 
◆ご自身の音楽を色で例えるとどんな色ですか。またその理由を教えてください。
んー、難しい質問ですね。きっと私本人より、聞いて下さった方に質問してもらった方がいいような気がしますが・・・。(笑)
一色ではないと思います。暗い色でもないと思います。きっとカラフルですね。「尚美さんの音色は陰影があって好き」という感想をこの間いただきました。最高の褒め言葉を頂けたと思いました。
ブラジルは、とても明るくて開放的なところです。みんな人生を楽しむために生きています。その分、物事が機能しなくて困ることは多々ありますが。(笑)
太陽がキラキラと輝いて、海風が街中にビュンビュン吹き渡る、そんな街で生まれる音楽の色、皆さんどんな色を想像されるでしょうか?
 
 
◆演奏、音楽制作するときに大切にしていることはありますか。
その楽曲の美しさを最大限に引き出すこと。伝統を踏襲しながらも、古いものを再現するだけではなく新しいサウンドを作ること。そしてアンサンブル。ショーロは「集団的即興音楽」だと言われます。個人プレイではなく、数人でアンサンブルをしながら音楽を作っていく。基本的にはメロディしかないので、演奏者によって、その組み合わせによって、出てくる音はどんどん変わっていきます。その時に起こったことに反応しながら友人と会話するようにやる音楽の素晴らしさ。私はメロディ担当なので出来るだけ深い感情表現をしたい。でも、やっぱり表現したいのは「音楽」であり「私」ではない。つねに音楽の僕でありたいと思っています。
 
 
◆音楽をはじめたきっかけを教えてください。
物心がついた頃から音楽が大好きだったみたいで、家でおもちゃのピアノを弾いてよく遊んでいたようです。それに気づいた母が、幼稚園に入った時にオルガン教室に入れてくれて、その後ピアノのレッスンを始め、中学校のブラスバンドに入ってフルートを担当、ご縁を感じる方向へ向かいながら生きてきて、気がついたら現在に至っていた、って感じです。
 
 
◆今後の活動予定を教えてください。
私は普段はリオデジャネイロに住んでいて、年に一度の割合で約一ヶ月ほどの一時帰国をします。今回はこのCDをリリースさせて頂いたおかげて夏にも帰国出来たし、年末年始にもまた帰国して、リリースツアー第2弾で今回行けなかったところへ行きたいなあ、と思っています。
リオでは、Escola Portátil de Música (ショーロの学校)やCasa do Choro(ショーロの館)で後進の指導に当たったり、現地のショーロ演奏家たちと演奏活動をしたりしています。今年後半は、19世紀の中頃にショーロが始まった頃の編成(フルート、ギターX2、カヴァキーニョ) で21世紀のショーロを奏でるカルテットが始動予定、去年立ち上げたフルートカルテット(フルート4本)のコンサートも決まっていますし、今年の始めに作ったフルートオーケストラの初コンサートも年末に開催する予定で、指揮者として出演する予定です。
 
 
◆ファンの皆さんに一言お願いします。
いつもとはちょっとテイストの違うサウンドのCD「ショーロ・サンバ・ガフィエイラ!」、ぜひ聞いてみてくださいね。ブラジル音楽の持つ奥行きの広さに、改めて気付けると思いますよ。気に入ってもらえたら嬉しいです。こんな音楽を演奏する人たちが日本にもたくさん出てきたら良いなあ、と思います。ショーロファンの皆さん、これからもどんどんショーロを普及していきましょう!
最後になりましたが、こんな素晴らしい機会を与えてくださったティートックレコーズの皆さんに心から感謝いたします。
ありがとうございました!