KANKAWA「ORGANIST」

 日本、そして世界に於けるトップオルガンプレーヤーであり“KANKAWA”の久々となるジャズのリーダー作が届いた。前号ではそのプレビューを行ったが、今回はそのサウンドに迫ってみようと思う。
—オルガンの真の魅力を表現
 生のハモンド・オルガンの音を聴いた事があるだろうか? CDの中でのオルガンしか聴いた事の無い人にとってオルガンとはどんなイメージであろうか。豊かに伸びる低域、ロータリースピーカーの回転速度やドローバーによって自在に変わる音色、パッション溢れるパーカッションサウンド、そして何より他の楽器にはない表情豊かな持続音と、ハモンド・オルガンは実に魅力的な楽器なのだ。本作「ORGANIST」はその真のオルガンサウンドを捉えている。
—KANKAWAの奏でる豊かな音色
 「その1年ほど前からオルガンの根本的なタッチを変えてみようと思いました。なぜなら、従来のタッチでは僕の想像する音楽を演奏するのには限界を感じたからです。 どんな理想かと言うと、よりアコースティックでクラシックともジャズとも言えない優しくて今までに無い音楽です。」
とKANKAWAが語る本作は、近年彼が奏でる音とは全く違うものに仕上がっている。特に「Dear Myself」や「Portuguese Soul」で奏でられる繊細なニュアンスは、一音一音が心に訴えかけてくるように感じる。
 この演奏をするに至ったのは、タッチのわずかな動きも捉える写実的な高解像度録音をするティートックレコーズ金野氏との出会いによる。はじめは音が良く録れすぎていて演奏するのが怖くなったほどだとか。「あの演奏にはあの録音方法しかない、と自負しています。」とKANKAWAが語るように、その繊細なニュアンスを実に細かいところまでを捉えている。今回の録音には世界初であろう特注オルガンケーブルの使用を初めとして徹底的したこだわりがつらぬかれ、「金野サウンド」を確立している。
—究極のアナログディスク
 そのこれまでにないオルガン・サウンドを存分に伝えるべく、本作はアナログディスクでもリリースされた。4年の構想を経て作り上げられたというこのディスクは、「アナログ」「デジタル」の良い部分を凝縮し、アナログの可能性を極限まで追求した新たな作品になっている。
 まず、その音を聴いて驚かずにはいられなかった。これまでに聴いた事の無い音なのだ。今回はアナログの温かみを残しながらも、“高解像度”“鮮度感”“豊かなダイナミックレンジ”という192kHz/24bitのマスターデータの持つデジタルの良い面がはっきりと感じ取る事が出来る。
—192kHz/24bit真の“デジタル・ダイレクトカッティング”
 通常アナログディスクは、CD-RやDVD-Rにコピー(1)マスターデータをプレーヤー(2)からデジタルディレイ(3)更にDAC(4)を経由し、コンソール(5)に立ち上げられる。そこで各種補正が施され制御装置(6)によりレベルを監視し、カッティングが行われる。このように通常の工程では行く経にも機材を経由しデータロス、機材による音の劣化が生じてしまう。写真が色褪せをおこしていく様に音の鮮度感が失われていってしまうのだ。
 今回はその劣化を防ぐ為に、それらの工程を完全に排除するという試みが行われた。レコーディングをしたハードディスクを搭載したPC、及びPro Toolsをスタジオに持ち込み、直接カッティングマシーンへ信号を流し込む、言わば“デジタル・ダイレクト・トラックダウン”、そして“デジタル・ダイレクトカッティング”が行われた。
 アナログ創世記にはリアルタイムでの演奏をそのままカッティングするという“ダイレクト・カッティング”が行われていた。これは一切の機器を挟まず、音の鮮度感が損なわれる事がない。しかし、アナログのマスターというのはすぐに劣化をしてしうもので、複製や試聴の回数を重ねる毎の劣化は顕著だ。また、どんなに素晴らしい演奏でも、バランスや書き込みレベルの細やかな調整を施す事が出来ない。そして、どんなに優秀な演奏家であっても、毎回最高の演奏を残すのは難しいものだ。
 その点今回の”デジタル・ダイレクト・カッティング”では、素晴らしい演奏を録音、そして最良のバランスで、最良のレベルに仕上げる事が出来るのです。アナログのデメリットを補い、あまりある程のメリットを持っていて、ここにデジタルとアナログの真の融合をみることが出来る。
ー5回、1ヶ月以上にも及ぶカッティングー
 さあ、そのようにして行われたPro Toolsによる調整は0.1dB単位で本当に細かなところまで追い込まれていく。ハモンド・オルガンの出す豊かな低域や各楽器が出すピークはわずかながらの歪みを生み出す。通常であればOKとされるその歪みも見逃さず、各楽曲の良さをひき出す為に楽曲毎にケーブルも選定し、想い描く状態でカッティングが行われていったのです。そうしていよいよスタンパーの製造に進んでいきます。当日行われたテストカッティング盤を様々な聞いた金野氏は、あと一歩、あとわずかに追い込めるポイントが見えて来たと言います。「見えて来てしまったという方が正しい表現かもしれません。この時すでに11月30日、発売を目前に控えていました。予約をされている方にご迷惑をかけることも承知で「中途半端な音を届けるわけにはいかない」ということで、発売日を過ぎた12月14日に正真正銘のラストカッティングが行われたのです。
 完成までに要したカッティングは計 5回、その制作期間は1ヶ月を越えるという。レコーディングが行われた7月から数えると約半年もの月日をかけて生み出した作品と言える。テストカッティングを行ったラッカー盤は100枚以上、さらに、なんと4度目には一度スタンパーまでも破棄されたという!これを聞いただけでもこの作品にたいする想い入れがひしひしと伝わってくる。
ー45回転12インチ、最重量200g、片面1曲ー
 こうして出来上がったのが、「アルティメット・マスター・ディスク」だ。仕様は「45回転12インチ」「最重量200g」「片面1曲」という贅沢なもの。片面1曲にすることで、音質劣化のある内径に出来るだけ入り込まないようにされている。さらに今回はダブルジャケット2枚組(特別BOX付き)でシリアルナンバー入り、限定300枚の生産。考えうる限り、最高のスペックでのパッケージだ。
 近年、ここまで愛情と魂を注ぎつくられた作品があっただろうか?この情熱が詰まった作品の詳細はT-TOC RECORDSのHPにもアップされている。是非ご覧頂きたい。そして、是非肌でその音を感じて欲しい。
T-TOC RECORDSアナログ特設ページ 
http://www.t-tocrecords.net/umv.html

宮本笑里「for」

新たなるステージへの出発-豊かな表情をみせる旋律
 宮本笑里待望の4thアルバムが届いた。一つの言葉でかざられてきたこれまでの彼女のア ルバムタイトルは、その時の彼女を映し出すかの様なタイトルが付けられて来た。今回 は「for」。この言葉に 込められた意味を本人はこう話している。
「デビューから去年まで、どちらかというと自分自身というものを確立するのに精いっぱいで、周 りを振り返る余裕がありませんでした。今年ヴァイオリニストとして以外にも新たな挑戦をさせていただき、沢山のアーティストや文化人、 ジャンルを越えた人たちに出逢いました。そこには私の今までの常識や世界観だけではとても収まりきらないたくさんの想いがあり、その刺 激は、私にも大きな影響を与えました。それはシンプルにいうと、自分のためだけでなく、大切な人のために演奏をするということ。(中略)このアルバムは、たくさんの出会いや経験を自分自身の新たな表現へとつなげられるよう、大切な すべての人のために、ひとつひとつ演奏しました。」
 テレビ番組のキャスターに抜擢される等、人間的にも大きな転換期になったであろう2010年の成長をたっ ぷり感じさせてくれる内容となっている。“ひとつひとつ演奏しました”という本人の言葉通り、丁寧に演奏している印象をうける。そこには “伝える”ということに焦点が当てられているかの様で、歌心あふれる豊かな表情が広がっている。
 これまで同様に彼女のためのオリジナル作品とクラシックの小品によって構成されている。多く のタイアップ曲を収録、美しい旋律は聴いていてどれも魅力あふれるものばかりが揃っている。また前作「dream」の表題曲『dream』に続き、彼女 の作曲第2作目となる『Marina Grande』は、優しさに溢れながらも前を見つめて進んでいく様な確固たる意志を感じる事が出来る佳作。今まさに航海に旅立とうとしている、今後の彼女のより一層の飛躍を予感させる壮大な楽曲。
「for」—これは、この作品を聞く人すべてに捧げられた作品といえるだろう。


宮本笑里「for」
2010年12月8日発売
初回生産限定盤(CD+DVD)SICC.10098-99/¥3,465(税込)
通常盤(CD)¥3,045(税込)/SICC.10100


DISC1【CD】
1. Marina Grande(宮本笑里)

2. 2つのヴァイオリンのための協奏曲より
第1楽章:ヴィヴァーチェ(J.S.バッハ)
3. ZERO(吉田翔平)

4. Esperanza(CHI-MEY)

5. テンポ・ディ・メヌエット~プニャーニのスタイルによる(クライスラー)
6. 道標~シンフォニエッタ(福山雅治)
7. 愛のあいさつ(エルガー)
8. 白鳥(サン=サーンス)
9. 椰子の実~太平洋の奇跡(大中寅二/加古隆)
10. フレンズ(大川茂伸)
11. gift(吉田翔平)

12. Crime and Punishment(千住明)
13. 感傷的なワルツ(チャイコフスキー)
14. ツィゴイネルワイゼン(サラサーテ)
15. エストレリータ(ポンセ)
Bonus Track
16. Butterfly(末光篤)
DISC2【DVD】
1.”Marina Grande” プロローグ
2.Marina Grande(宮本笑里)

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